今回は、IC-T10(ICOMのV/Uアマチュア無線機)の海賊版(模倣品)を分解検証していきたいと思います。
今回、比較のために国内正規代理店から入手したIC-T10とも比べながら検証します。
で、ぱっと見た目では区別はつかない。
IC-T10(模倣品)はアマチュア無線機で、海外通販で正規品と装って販売されいるが、レバノンの無線機爆発もあり実態を調査するために入手しました。
*レバノン無線機爆発:2024/09/18にレバノンでICOMのIC-V82(VHF FM)の模倣品と思われる無線機が爆発し死傷者が発生した。
*IC-V82と同じ筐体を使用するアマチュア無線機として、IC-V1(U1)が日本国内でも販売されていた。
上:模倣品
下:正規品
海外から送られてきたため、輸送中の取り扱いによるものと思われるダメージにより箱が少し変形しているが、そもそもダンボールの品質が悪いように思われる。印刷は、比較しない限り違いは判らない。
正規品
・本体
・バッテリ
・ANT
・ベルトクリップ
・充電器
・ACアダプタ(BC-123S)
・取説
・保証書
模倣品
・本体
・バッテリ
・ANT
・ベルトクリップ
・充電器
・ACアダプタ(BC-242)
・プラグアダプタ(Aタイプ・Cタイプ)
・取説(英文)
上:模倣品
下:正規品
付属品を含めよく”まね”していて、比較しながらでないと分からない。知見の無い状態で渡されたら”こんなもんか”と思ってしまう。
出来が精巧なため、判らなくならない様に模倣品には青シールを貼っておきます。
左:正規品
右:模倣品
本体比較
模倣品の方がシボが荒く、艶がある。
左:正規品
右:模倣品
本体背面
正規品は、国内アマチュア無線機のため技適番号の表記がある。
模倣品は、製品認証ページにアクセスするQRコード(ただし非正規のページに飛ぶ)と、ホログラムシールがある。
QRコードを読み込んだところ、正規品と表示されるが、飛ばされたページのURLが
模倣品:http://genuineicom.com/
ICOMの認証ページは、https://genuine.icom.co.jp/
模倣品のURLは、セキュアがかかってないし日本国内の企業ドメインでもない。
ホログラム
見る向きを変えるとICOMのロゴがネガポジ反転するが、四隅はオレンジにならない。
https://www.icom.co.jp/news/8110/
ICOMはアマチュア無線機は、偽造のリスクが低いためQRコードによる製品認証やホログラムの貼り付けは行っていないと発表しているが、このIC-T10にはどちらもある。
左:正規品
右:模倣品
模倣品のシールには、
”BATTERY MADE IN JAPAN”
”ASSEMBLED IN CHINA”
となっているのが笑える。
どっちも中国製やろ!?
左:正規品
右:模倣品
見た目では区別がつきにくい。
特性は測っていないので性能差は不明。
左:正規品
右:模倣品
上からの見た目にほぼ差はない。
充電器としても、とりあえず相互に入れ替えて動作した。
左:正規品
右:模倣品
充電器底面
あからさまに、模倣品の方が質が悪い。
目に見えない所は、手を抜いている(笑
左:正規品(BC-123S)
右:模倣品(BC-242)
同じものでは無いので、単純に見た目での判断は出来ないのだか・・・模倣品の方が軽い。
左:正規品
右:模倣品
動作させてみると、模倣品の方で既視感が・・・beep音や操作のレスポンスに覚えがある。少し前に流行った中華ハンディUV-K5にそっくり。
模倣品は液晶の視野角が狭い。
持った感じ、重さが違ったので測ってみた。
正規品
本体+BATT:252g
本体:147g
BATT:105g
模倣品
本体+BATT:224g
本体:135g
BATT:89g
模倣品が1割以上軽いね~
部品が間引かれてるのかな?
表記上は模倣品の方が電池容量も多いんだけど、軽い。なんでだろ~ね~
ここから、電気特性を測っていく。
測定治具として、外部電源アダプタ”AD-149H”(正規品)を使用する。
模倣品の性能が意外と悪くない(笑
品質は知らんけど
模倣品も十分に実用となる性能である。
国内法規に照らし合わせると、VHF帯のスプリアスが大きく適合しない。これは、アマチュア無線用として設計されておらず送信範囲が広いため、LPFを甘め(もしくは無し)としている為だろう。それ以外は、正規品と比較しても遜色がない。むしろ、受信感度はかなり良いと言える。受信感度が良い→多信号特性は?となるが、今回は割愛。
正規品のVHFスプリアス
この測定条件では、測定限界以下
模倣品のVHFスプリアス
-24.7dBcと、ほぼフィルタされていないのでは?と思う。
模倣品の変調時近傍スプリアス
色々条件を変え測ってみたが、不要輻射は見つけられない。
ここから分解して中を見てみよう。
まずは、正規品
正規品は以前ブログで分解しているので、細かい事は置いといて模倣品との比較にとどめる。
模倣品
外見はそっくりだが、内部はかなり異なる。
CRは主に1005サイズが使用されている。
人件費が安い為だろうか、基板-SP間は手半田で接続
左:正規品
右:模倣品
基板表
ネジ位置などは同じ。
左:正規品
右:模倣品
基板裏
少し驚いたのは、模倣品の方もシールドケースを使っている事。
不要輻射なんてクソくらえ!って作りだと思ってた←偏見ww
制御をつかさどるCPU
32bit ARM プロセッサ
NATION
N32L408
結構、高性能なの載せてるね。
シールドケースの中には、送受信ICがある。
UV-K5でもおなじみの
BEKEN
BK4819
ファイナル
1.8~600MHz 6W LDMOS
huatai
HTL7G06S006P
これで、放熱もいまいちなのに5W強を出してる・・・
左:正規品
右:模倣品
筐体(シャーシ)
正規品は呼吸穴(橙丸)に、通気性のある防水シール(ゴアテックスの様な物)が貼ってあるが、模倣品は無い。正規品はIP67(水深1mに30分沈める)に対応しているが、模倣品は呼吸穴から浸水すると予想される。
正規品
ファイナルの放熱
部品面ファイナル(赤丸)とシャーシ(黄丸)が、放熱シリコンを介して接触
正規品
ファイナルの裏(赤丸)にヒートスプレッダが取り付けられておりネジを介してシャーシに放熱
熱抵抗が高いようにも思うが・・・
模倣品
ファイナルの放熱
部品面ファイナル(赤丸)とシャーシ(黄丸)が、放熱シリコンを介して接触
ここの構造は、正規品と似ている。
模倣品
ファイナル裏には特に何もなく放熱への寄与は少ない。
*一応、ベタパターンはではあるが
左:正規品
右:模倣品
バッテリの比較
正規品は、7.2V 2400mA/h
模倣品は、7.4V 2450mA/h
端子配列は、左から(-)(T)(B)(+)
(T)内部温度センサ
(B)電池電圧
正規品
内部温度はサーミスタが繋がれており、充電時に電池温度を監視しながら充電を行う。
正規品
常温(23℃)
正規品
バッテリを手で温めた後に測定。抵抗値が下がることから、サーミスタが使われていると推測。
模倣品
温めても抵抗値変わらず。サーミスタなどは使用しておらず、常温を想定した値の抵抗が付けられていると推測。
充電中に熱暴走が始まっても充電を止める事が出来ない。
左:正規品
右:模倣品
充電器の比較
動作は確認していないが、模倣品はCCCV充電をしているだけと思われる。また、(T)端子や(B)端子は使用していない。(未接続)
模倣品の無負荷時の出力を確認すると、10V程度出ておりCCCV充電終了後も、トリクル状態ではあると思われるが過充電がすすむ。
正規品の充電器で模倣品のバッテリを充電してみる。温度検出は出来ていないと思うが、充電は完了した。
正規品の充電器は、安全マージンのためか8.2V程度で充電を停止させている。
模倣品は、8.4Vまで充電する。
模倣品を分解して、かなり高いレベルでモノづくりが出来ていると感じた。ただ、ソフトウエアの作りこみが甘く送受の切り替えレスポンスが悪かったり、取説に記載のある操作が出来なかったりする。また、安全性・信頼性については怪しく安心して長期間使えるとは思えない。
今後、模倣ではなく品質を上げ、各国の実情に合わせたモノづくりをするようになると大きな脅威となる。
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